
Interview
Performance Notes
Q1.
まず最初に、この『Anniversary』はGADEとして初めてリリースした作品になりました。デビュー作にこの曲を選んだ理由を教えてください。
A.
人の人生って、それぞれにドラマがありますよね。映画やアニメでも、同じシーンでも背景に流れるサウンドトラックによって受ける印象は大きく変わります。
この曲は、「誰かの人生のサウンドトラックになってほしい」という願いを込めて作りました。特別な日だけではなく、何気ない日常や、忘れたくない瞬間にそっと寄り添えるような音楽になればいいなと思っています。だからこそ、この作品をGADEの最初の一曲として届けたいと考えました。
Q2.
「誰かの人生のサウンドトラック」という言葉が印象的です。その考え方は、もともと音楽を始めた頃からあったのでしょうか。それとも、GADEというプロジェクトを立ち上げる中でたどり着いたテーマなのでしょうか。
A.
僕が劇伴作曲家としてデビューして、さまざまな現場で経験を積んでいく中で、自然と出来上がっていった価値観なんだと思います。
映像作品では、音楽は主役ではなく、物語や登場人物を支える存在です。その経験を重ねるうちに、「音楽は誰かの人生にも寄り添えるものなんじゃないか」と考えるようになりました。GADEの楽曲でも、その想いは変わらず根底にあります。
Q3.
『Anniversary』はLo-Fi Hip Hopやジャズの要素も感じられる一方で、しっかりとしたメロディラインが印象的です。この音楽性は、最初から目指していたものだったのでしょうか。
A.
実は『Anniversary』の原曲は、DJ Massさんが制作チームに参加する前にはすでに完成していました。
今のGADEは、短いフレーズを軸に展開していく、いわゆる”リフ”を中心とした楽曲が多いのですが、この曲はそれとは少し違います。Aメロ、Bメロ、サビという明確な構成があって、クラシックでいうソナタ形式のように、メロディとコード進行がしっかり組み立てられています。
だからこそ、ピアノとヴァイオリンだけでも成立する曲ではあるんです。でも、僕自身はクラシック作品を作りたかったわけではありません。アナログな響きだけではなく、デジタルサウンドやビートを取り入れて、しっかりとリズムを感じられる作品にしたいという思いがありました。
そのアレンジの方向性に悩んでいたタイミングで出会ったのがDJ Massさんです。本格的に一緒に制作した最初の作品が、この『Anniversary』でした。
今振り返ると、この頃のGADEはまだクラシカルな要素が強く、現在のサウンドとは少し違った表情を持っています。
Q4.
DJ Massさんとの共同制作で、特に印象に残っていることはありますか。
A.
一番印象に残っているのは、ジャンル感や世代感、そしてサウンド全体の統一性についてアドバイスをもらったことですね。
MassさんはDJとしてさまざまな現場で音楽をプレイしてきた経験に加え、レコード店でバイヤーもされていました。膨大な音楽を聴き、それぞれのジャンルや時代性を見極めてきた方なので、「この曲はどんな音楽として聴こえるのか」という視点を持っているんです。
その中で印象的だったのが、
「カレーとラーメンはどちらも美味しい。でも、混ぜればいいというものではない。」
という話でした。
いろいろな要素を取り入れることはできますが、大切なのは「この作品は何という音楽なのか」が自然と伝わること。その考え方を教えてもらってからは、ジャンルを狭めるという意味ではなく、一つの作品として世界観に一貫性を持たせることをより意識するようになりました。
Q5.
ここまで制作背景について伺ってきましたが、『Anniversary』という一曲の中で、音楽的にぜひ注目してほしいポイントはありますか。
A.
さっき「クラシカルな曲」と言いましたが、実際にはジャズの要素もかなり入っています。
例えば、ブルーノート(特に♭5を意識したフレーズ)が頻繁に出てきますし、それをコードトーンとして自然に取り入れている場面も多いですね。なので、一般的なダイアトニックコードだけで進んでいる曲ではありません。
分かりやすいところだと、サビの終わりです。部分転調をしながら裏コードを挟んで、最終的に主和音へ解決しています。
学生時代はDonald FagenやSteely Dan、それから当時のAORをよく聴いていたので、その影響はかなりあると思います。派手に「ジャズです」と主張するわけではないんですが、和音の選び方やメロディの動きには、そういった音楽から受けた影響が自然と出ています。
Q6.
『Anniversary』はヴァイオリンのメロディが印象的ですが、演奏する上で意識していることはありますか。
A.
バイオリンが歌いやすいように、大きくフレージングを取ることは意識しています。
意外と呼吸とかも考えるんですよ。
例えば1小節ごととか、ワンフレーズごとじゃなくて、4小節くらいを一つの流れとして考えて、「ここで息を吸うかな」とか。
逆に、ここはさらっと流したいフレーズだなと思ったら、自分でも大きく息を吐きながら弾いてみたりします。
実際に音が変わるわけじゃないんですけど、意外とノリが変わるんですよね。
Q7.
制作当時、一番苦労したことは何でしたか。
A.
Massさんとのやり取りですかね。
DJの方と一緒に曲を作るのが初めてだったので、普段あまり使わないMIDIデータでやり取りすることが多かったですし、音色の選び方もそれまでとは全然違いました。
僕は生楽器を中心にやってきたので、「この音色がいい」「この質感がいい」という考え方自体、あまり意識してこなかったんです。
そういう意味では、制作の進め方も含めて新鮮でしたし、この作品を通して学んだことは多かったですね。
Q8.
『Anniversary』をリリースしてから時間が経ちましたが、今改めて聴き返してみて、この作品をどう感じますか。
A.
若々しいなと思います。(笑)
「音大だなあ」って感じですね。聴き心地はいいんですけど、斬新性という意味では少し弱いかなと。尖った音楽ではないと思います。
ただ、メロディや和音の構成は、我ながらよく考えられているなと思います。J-Pop的な要素が強いんでしょうね。
最初の一曲として、まず広く知ってもらうという意味では正解だったのかもしれません。今リアレンジしようと思っても、「ここを直したい」というところはあまりないですね。
そういえば、メロディを作るときは、自分の中で何パターンか作ってトーナメントみたいに比較していました。
サビの入りと、サビの最初のメロディだけで2日くらいかけた記憶があります。そこが決まると、あとは結構早かったですね。
Q9.
最後に、『Anniversary』をこれから聴く方へメッセージをお願いします。
A.
記念日って、人それぞれ違う形があると思うんです。
この曲が、あなたの何かしらの思い出のサウンドトラックになったら嬉しいですね。
まあでも、難しいことは考えず、好きに聴いてほしいです。
曲って、リリースされるまでは作った僕のものなんですけど、リリースした後はみんなのものだと思っています。
もちろん、聞かれたら「こういう思いで作りました」とはお話しします。でも、それは一つの答えでしかなくて、どう感じるかは聴いてくれた人それぞれです。
だから、自分なりの解釈で自由に楽しんでもらえたら嬉しいです。
Q.
今回のCDにはスコアも収録されています。もし演奏する方がいるとしたら、『Anniversary』ではどんなことを意識してほしいですか。
A.
とにかく大きく歌うことですね。
さっきのインタビューでも話しましたが、1小節ずつとか、ワンフレーズずつというより、展開ごとで考えると自然に抑揚が付く気がします。
あと、Bメロの入り(01:00-)のオカズは、僕がよく使うフレーズです。ⅠM9を上から前打音で入れるやつですね。
サビの最後(01:57-)の裏コードは、ボイシングを固まりのまま平行移動した方がかっこいいと思います。部分転調ではあるんですが、あまり「転調しました」という感じを出しすぎない方が、1番の物語としてまとまる気がします。
1番と2番は、それぞれ別の物語が始まるようなイメージで弾いてほしいので、2番だからといって1番のヴァイオリンのフレージングをそのままなぞる必要はないと思います。
あと、02:14のBb→Bの経過音は、ピアノの人はペダルを半分くらい踏み替えてください。たぶん濁るので。意外と足が忙しい曲なんです。(笑)
ピアノソロ(03:18-)は、Brian Culbertsonがよく使うようなオクターブの3連打を、マイナーペンタで入れています。あれはもうイディオムというか……気合です。(笑)
ソロが終わるとラスサビ前にブレイク(03:35-)があるんですが、そこはもう気合で心の中で数えてください。結構ミスるんですよ、あそこ。(笑)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
普段は音だけで完結することが多い音楽ですが、今回は「なぜこの曲が生まれたのか」「どういうことを考えながら作っているのか」を、少しだけ言葉にしてみました。
正解はありません。
このCommentary Accessを読んでから聴く人も、読まずに自由に聴く人もいていいと思っています。
もしあなたなりの解釈や感想が生まれたら、ぜひ教えてください。
また次の作品で、お会いしましょう。
Yoshitake Wada